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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)153号 判決

東京都港区芝5丁目6番1号

原告

出光石油化学株式会社

代表者代表取締役

河野映二郎

訴訟代理人弁理士

東平正道

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

米田昭

下中義之

後藤千恵子

小川宗一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成7年審判第24269号事件について、平成8年5月7日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和61年4月8日、名称を「簡易ピール容器」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、特許出願をした(特願昭61-79260号)が、平成7年10月17日に拒絶査定を受けたので、同年11月15日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を、平成7年審判第24269号事件として審理したうえ、平成8年5月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年7月1日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

多層シートで形成された多層容器本体と、該容器本体のフランジ部において接着されたトップフィルムとからなるピール容器において、該容器本体の内外層の層間接着力を該フランジ部と該トップフィルムの接着力より小さくなるように該容器を構成させるとともに、前記フランジ部の容器開口部側の内層に切り込みを設けたことを特徴とする簡易ピール容器。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、実公昭59-24700号公報(以下「引用例1」といい、そこに記載された発明を「引用例発明1」という。)及び実願昭55-35291号の明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(実開昭56-138075号参照、以下「引用例2」といい、そこに記載された発明を「引用例発明2」という。)の各々に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例1及び2の各記載事項の認定(審決書2頁19行~4頁11行、5頁13行~6頁17行)は、認める。

審決は、引用例発明1の認定を誤った結果、本願発明と引用例発明1との相違点を看過し(取消事由1)、相違点の判断も誤り(取消事由2)、本願発明の有する顕著な作用効果を看過し(取消事由3)、本願発明の進歩性を否定したものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  相違点の看過(取消事由1)

(1)  引用例1において、「切断されて離脱する」離着用フィルム8は、開封時に、その内部全体にわたってフランジ面とほぼ平行に2つに引き裂かれていき、そのうち蓋体シール部分のポリエチレン18に固着した側の部分が、離着用フィルム8’として容器本体4から離脱して蓋体5側に移るものと認定することも可能である。なぜなら、引用例1記載の剥離強度(甲第4号証3頁6欄9~13行)は、良好な接着性を有する離着用フィルムの層間剥離強度としてはあまりにも低く、また、その再現のための実験結果(甲第7号証)によれば、層間剥離という現象が発生しない場合もあり得るからである。

つまり、引用例発明1の離着用フィルムは、凝集破壊を示しているとも解され、少なくとも、本願発明の「内層」のように、容器本体の内外層間で層間剥離するという明確な技術思想を一義的に開示しているものとはいえない。

したがって、引用例発明1の「離着用フィルム」が、本願発明の「内層」に相当するとする審決の認定(審決書4頁13~16行)は、誤りである。

(2)  引用例発明1の「離着用フィルムの離着強度」は、引用例1の記載(甲第4号証2頁3欄36~41行)からすると、まず、離着用フィルムが切断され、続いて離着用フィルムと支持フィルムの層間における剥離が生ずるのであるから、「離着用フィルムの離着強度」とは、離着用フィルムの切断強度と、離着用フィルムと支持フィルムの層間接着力の総合されたものと解される。

そして、離着用フィルムの切断された後は、離着用フィルムと支持フィルムの層間から剥がれていくことからして、離着用フィルムの切断強度の方が、離着用フィルムと支持フィルムの層間接着力より大きいことになるから、「離着用フィルムの離着強度」とは、実質的には、「離着用フィルムの切断強度」を意味するものである。

これに対し、本願発明は、切込みを必須の要件とする発明の趣旨から、容器本体内層の切断強度が問題になることはなく、容器本体から蓋材を切り離すに要する力は、内外層の層間接着力のみにより決定される。

したがって、引用例発明1の「離着用フィルムの離着強度」が、本願発明の「内外層の層間接着力」に相当するとする審決の認定(審決書4頁14~18行)は、誤りである。

(3)  引用例発明1は、紙カップ状易開封性容器における紙の層割れを防止することを課題とし、離着強度(前記のとおり、実質的には、切断強度を意味する。以下同じ。)がカップ原紙の層間強度よりも小さくなるような特別の素材で離着用フィルムを形成した点に技術的意義を有する。また、引用例発明1では、「離着用フイルムの離着強度が弱すぎると当然封緘強度が弱くなり内容物の保護の点に懸念が生ずる。」(甲第4号証2頁4欄1~3行)と記載されるとおり、容器の内圧に耐える密封強度が、容器本体の離着用フィルムの離着強度によって制御されており、容器本体と蓋材との間の大きな熱融着接着力を密封強度として活かすことを断念したものである。

これに対し、本願発明は、容器本体の内外層の層間接着力にかかる構成と、容器本体の内層に切込みを設ける構成とが一体的に作用して目的を達成するもので、容器本体の内層として、外層との層間接着力を蓋材であるトップフィルムとの接着力より小さく調整できるような素材であれば自由な選択が可能であり、容器本体と蓋材との熱融着接着力の大きさを密封強度として活かすこともできる。

したがって、本願発明は、引用例発明1のように、離着強度の小さい素材を用いる必要はなく、この点においても、引用例発明1と相違する。

(4)  したがって、審決が、上記の各相違点を看過し、「本件発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、両者は、本件発明がフランジ部の容器開口部側の内層に切り込みを設けているのに対し、引用例1に記載された発明は該構成を具備しない点で相違しており、その余の点で一致している。」(審決書7頁3~7行)と認定したことは、誤りである。

2  相違点についての判断の誤り(取消事由2)

(1)  引用例発明1は、前示のとおり、容器本体の内層となる離着用フィルムとして離着強度の小さい素材を用いる点に技術的意義を有するものであるから、これに本願発明のような切込みを設けることは、その必要がないだけでなく、発明の技術的意義を喪失させる行為である。

そもそも、引用例発明1において、その切り口をシャープにしたければ、そのような厚さや、材質等の内層を選択すれば済むことであり、切込みを設ける必然性はない。また、離着用フィルムの層は、実施例において10ミクロンと薄いが、これは、たまたま実施例が薄く記載されたわけではなく、引用例発明1における破断しやすい内層として、本質的に薄いことが要請されるものである。そうすると、引用例発明1において、弾力性、圧縮性に富んだ原紙の上に、支持フィルムを介して積層された薄い離着用フィルムのみに切込みを設けることは、技術的にほとんど不可能なことであるし、しかも、外層の支持フィルムにまで切込みを入れるのであれば、紙の層を保護する機能が果たせなくなるのである。

したがって、引用例発明1の離着用フィルムに切込みを設けることは、当業者にとって、容易に想到できることではない。

(2)  他方、引用例発明2は、従来の密封容器の蓋材における欠点を蓋材の構造を改良することにより解決したものであり、この構造を、容器本体の側に適用することを示唆する記載はない。一般に、容器本体と蓋材とは、いずれも容器を構成する部材ではあるが、その機能、構成、生産工程及び流通形態が異なり、取り扱う素材メーカーも相違するから、互換性を有するものではなく、両者の間において、一方の技術を他方に転用するという発想も、通常なされないものである。

したがって、引用例2に、「多層シートからなる蓋板の内外層の層間接着力を該内層と多層シートからなる容器体フランジ部との熱融着接着力より小さくし、該内層の熱融着部の内外位置に切込を設けたことを特徴とする易開封性容器」の発明が記載されていることは認めるが、この記載から蓋材と容器本体との区別を捨象して、審決書記載(審決書6頁18行~7頁2行)のような抽象的な技術概念を導くことは誤りであり、当業者にとっても、引用例発明2の蓋材に切込みを設けた構造を、容器本体の側に適用することは、困難といわなければならない。

(3)  以上のとおり、引用例発明1は、容器本体側に生じる不都合を容器本体側素材によって解決し、引用例発明2は、従来の蓋材における不都合を蓋材の構造の改良によって解決するものであり、両者の課題と解決原理に共通性はないが、仮に、両発明を組み合わせるとしても、引用例発明2の切込みを、引用例発明1の容器本体のフランジ部に設けるという発想は、当業者にはあり得ないことである。

すなわち、前述のとおり、引用例発明1の容器本体のフランジ部は、切込み加工できるものでなく、また、引用例発明2は、蓋材における切込みのみを開示するから、強いて、引用例発明1に切込みを設けるとすれば、アルミニウム箔の外層に低密度ポリエチレンの内層が積層された構造になっている(甲第4号証3頁5欄30~34行)蓋材の内層に、切込みを入れ、蓋材の内層と外層との接着力を容器本体のカップ原紙の層間強度より小さくなるように調整するというのが、当業者の通常の発想であり、フランジ部に切込みを設けた本願発明には、到達しないのである。

したがって、審決が、「引用例1に記載された発明が、容器本体は上記多層シートで形成されトップフィルムは上記他の多層シートで形成されているのであるから、引用例2に記載された発明の切込は、設計上当然のことながら、多層シートで形成されている、引用例1の容器本体のフランジ部の容器開口部側の内層に設けるべきものである。したがって、引用例1に記載された簡易ピール容器のフランジ部の容器開口部側の内層に切り込みを設けて本件発明の如く構成することは、当業者が容易に想到し得たといわざるを得ない。」(審決書8頁2~12行)と判断したことは、誤りである。

3  作用効果の看過(取消事由3)

引用例発明2に開示されるように、蓋材に切込みを設ける場合には、容器本体フランジ部の内周及び外周に沿って、蓋材に二つの切込みを設けることが必須であり、その際、外観不良と内容物の取出し不良の原因とならないように、その切込み位置についてはかなりの精度を要し、さらに、蓋材の内層は切込みを入れられるだけの厚さが要求されるため、生産性に劣るという問題が生ずる。

これに対して、本願発明のように容器本体のフランジ部に切込みを設ける場合には、通常、フランジ部の内周に沿った、一つの切込みを設けることで充分であるため、位置決めの精度が要求されず生産性に優れ、また、確実に易開封性が得られるとともに、外観上の問題や内容物の取出し不良の問題もなく、さらに、蓋材は、切込み加工できるための厚みを要求されることがないから、この点からも生産性に優れることになる。

したがって、審決が、「本件発明の構成全体によってもたらされる効果も、上記引用例1~2に記載された技術事項から、当業者であれば予測し得る程度のものである。」(審決書8頁13~16行)と判断したことは誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。

1  取消事由1について

(1)  引用例1には、「開封時密封された蓋体5を剥離するときは第2図にみられるようにヒートシールされた部分の離着用フイルム8’は切断され離脱して蓋体シール部分のポリエチレン18に固着したまま蓋体5側にうつつて開封がなされる。」(甲第4号証2頁3欄36~41行)と記載されており、当業者は、この記載及び第2図から、引用例発明1では、支持フィルムと離着用フィルムが層間剥離することによって開封作用をなす技術が開示されているものと認識できる。

したがって、引用例発明1の離着用フィルムが凝集破壊を示しているとの原告の主張は、失当であり、この点に関する審決の認定(審決書5頁9~12行)に誤りはない。

(2)  引用例発明1の「離着用フィルムの離着強度」が、離着用フィルムの切断強度と、離着用フィルムと支持フィルムの層間接着力の総合されたものであることは、認めるが、本願明細書の記載(甲第2号証5頁18行~6頁6行)によれば、本願発明も、内層の一部だけ切り込まれたものや、周の一部を残して切り込まれたものも含むものであり、これらのものは内層を切断して剥離するのであるから、本願発明の「内外層の層間接着力」は、引用例発明1と同じく、内層の切断強度と内外層間の接着力の総合されたものといえる。

したがって、この点において、本願発明と引用例発明1とに相違がないことは、明らかである。

(3)  審決は、引用例1の簡易ピール容器において、容器本体の内外層の層間接着力を、フランジ部とトップフィルムの接着力より小さくなるようにした構成自体を引用したのであって、容器本体の素材が紙であることから生ずる特有の問題を解決するための具体的細部構成を引用したのではない。

そして、当業者が、通常の知識をもって引用例1の開封のメカニズムを読みとれば、容器本体の離着用フィルムと支持フィルムとの接着力が、容器本体フランジ部の離着用フィルムと蓋材との接着力より小さいことによって、この開封が実現されているものと理解し、このような技術的思想の本質を容易に把握できるのである。

また、容器の内圧は、離着用フィルムのみを引張するのではなく、積層一体化された離着用フィルム、支持フィルム及び紙の3層積層体を一体的に引張するのであるから、原告の主張するように、内圧に耐える力が、離着用フィルムの切断強度のみによって支配されることはあり得ない。

したがって、引用例発明1には、本願発明における「内外層の層間接着力」に相当する技術概念が示されており、本願発明と引用例発明1とは、フランジ部の容器の開口部側の内層に切込みを設けた点に相違があるにすぎないのである。

(4)  以上のとおり、審決における一致点及び相違点の認定(審決書4頁12行~5頁12行、6頁18行~7頁7行)に、誤りはない。

2  取消事由2について

(1)  引用例発明1の易開封性容器にあっては、開封時の切断部の切り口がシャープでないから、引用例発明2に開示されたような切込みを設けようとする場合、フランジ部の容器開口部側の離着用フィルムにこの切込みを設けて、内層の切断部の切り口をシャープにしようとすることは、当業者が容易に想起し得ることである。

また、引用例発明1の紙カップ状容器の内層には、通常、段差が存在するが、切込みを設けようとする場合には、紙カップ状容器製造装置の周状刃や、あるいは内層の材質や厚さ等を調整して、実施可能な範囲で適宜工夫を凝らせばよいのである。原告は、引用例発明1において、離着用フィルムが薄いのは本質的なことであると主張するが、離着用フィルムの引張強度は、フィルムの厚さの要因のみではなく、材料の材質の要因によっても決められるものである。

そして、内層への切込みは、厳密な寸法精度を要するものではなく、蓋を剥がす時に内層を容易に切断できるものであれば、外層まで切り込まれていようが、内層の一部だけ切り込まれていようが構わないのであり、この点は、本願発明の場合も同様である(甲第3号証2頁3欄40行~4欄2行)。

したがって、引用例発明1の離着用フィルムに切込みを設けることは、当業者にとって、容易に想到できるものである。

(2)  他方、引用例発明2の簡易ピール容器では、一方の多層シートの内層を他方の多層シートの内層に付着させて内外層を剥離することによって開封する際、一方の多層シートの内層の剥離部の端部境界を明瞭にする、すなわち切り口をシャープにするために切込みを設ける技術思想が開示されており、審決は、引用例発明2に開示されたこの技術思想を引用したのであって、その具体的な細部構造を引用したものではない。

したがって、審決が、引用例2に、「『多層シートの内外層の層間接着力を該内層と他の多層シートとの熱融着接着力より小さくし、該内層の熱融着部の内外位置に切込を設けたことを特徴とする易開封性容器』が記載されている」(審決書6頁18行~7頁2行)と認定したことに、誤りはない。

しかも、蓋と容器のそれぞれの内層であるヒートシール層は、容器の構造材ではなく、あくまでも熱接着のための層であるから、引用例発明2の切込みをいれる技術を、同じく構造材でない引用例発明1のフランジ部の内層に適用するのに、原告が主張するような困難さはない。

また、本願発明は、簡易ピール容器に関するものであって、包装技術分野に属し、容器の製造は容器メーカーが行うものであるから、素材メーカーが異なることを理由とする原告の主張は失当である。

なお、包装技術分野において、容器の開封を容易にするために、切込みを容器本体のフランジ部に設けることは、実開昭60-70551号公報(乙第1号証)、実開昭60-131556号公報(乙第2号証)、実開昭59-3869号公報(乙第3号証)及び実開昭59-35380号公報(乙第4号証)に示されるとおり、本願出願前、当業者が慣用していた技術事項であるから、切込みを容器本体側に設ける発想が従来存在しなかったという原告の主張には、根拠がない。

(3)  以上のことからして、相違点に関する審決の判断(審決書8頁9~12行)にも、誤りはない。

3  取消事由3について

引用例発明1において、離着用フィルムの切断箇所が外観不良となることは、当業者にとって自明のことであり、引用例発明2の、熱融着部の内外端部に切込みを設けたものは、蓋材の開封をより容易に行うことができるばかりでなく、開封後の外観も切込みを設けていないものに比し良好であることは、当業者が容易に理解し得たところである。そうすると、原告が主張する本願発明が奏する作用効果は、引用例発明1に引用例発明2を適用したことに伴う効果であって、当業者が容易に予測し得る程度のことである。

したがって、この点に関する審決の認定(審決書8頁13~16行)に、誤りはない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点の看過)について

審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例1及び2の各記載事項の認定(審決書2頁19行~4頁11行、5頁13行~6頁17行)は、当事者間に争いがない。

(1)  引用例発明1について、引用例1(甲第4号証)には、「本考案はポリエチレンをシーラントとする蓋体とともに使用し得、内容物の変質を招くことなく、しかも紙の層割れ、容器の破損を来すこともなく容易に開封し得る紙カツプ状易開封性容器を提供することを目的とする」(同号証1頁2欄28~32行)、「今縁部1を加熱されたヒーターバー6で加圧すれば蓋体5のポリエチレン18と容器4の離着用フイルム8は密着してヒートシールされる。開封時密封された蓋体5を剥離するときは第2図にみられるようにヒートシールされた部分の離着用フイルム8’は切断され離脱して蓋体シール部分のポリエチレン18に固着したまま蓋体5側にうつつて開封がなされる。離着用フイルムの離着強度がカツプ原紙の層間強度より強ければ開封時には当然紙の層割れが生じ、易開封性は得られず、また外観上も見劣りする結果となり、一方その逆に離着用フイルムの離着強度が弱すぎると当然封緘強度が弱くなり内容物の保護の点に懸念が生ずる。しかし本考案のように離着用フイルムとして特にポリオレフイン系三成分ブレンドポリマーを用いるときは離着用フイルムの離着強度とカツプ原紙の層間強度との間に良好な均衡が生じ、層割れもなく内容物の保護に何ら影響を及ぼすことなく、良好な易開封性がえられるのである。」(同2頁3欄34行~4欄9行)、「蓋体を引剥して開封したところ第2図の如き理想的な剥離状態にて剥離、開封することができた。」(同3頁6欄7~9行)と記載されている。

これらの記載並びに第1及び第2図(同4頁)を総合すると、引用例発明1は、内容物を変質させずに、紙の層割れ、容器の破損を来すことなく容易に開封し得る紙カップ状易開封性容器を提供することを目的とし、カップ素材と支持フィルムと離着用フィルムとを積層させた多層シートで容器の本体を形成し、この多層容器本体の縁部に、ポリエチレンをシーラント(密封剤)とする蓋体が接着されるものであるが、開封時には、ヒートシールされた部分の離着用フィルムが切断されて離脱し、フィルムの層全体が蓋体のポリエチレンに固着したまま蓋体側に移ることにより開封がなされるものと認められ、この開封の際、容器本体の内外層を形成する離着用フィルムと支持フィルムの層間接着力が、容器本体フランジ部の離着用フィルムと蓋体のポリエチレンとの接着力より小さくなるように構成されていることが明らかである。

原告は、引用例1記載の剥離強度や再現のための実験結果(甲第7号証)を考慮すれば、引用例発明1の開封時において、離着用フィルム全体が凝集破壊を生じ、フランジ面とほぼ平行に2つに引き裂かれ、そのうち蓋体シール部分のポリエチレンに固着した部分が、容器本体から離脱して蓋体側に移ると認定することも可能であり、容器本体の内外層間で層間剥離するという明確な技術思想を一義的に開示したものとはいえないと主張する。

しかし、前示のとおり、引用例1の明細書中に離着用フィルムの凝集破壊を示唆する記載はなく、また、同第2図には、支持フィルムから離着用フィルムが一体となって離脱して、蓋体のポリエチレンに固着したまま蓋体側に移った状態が図示されているから、容器本体の支持フィルム側に離着用フィルムが残存していないことは明らかであるし、前記「蓋体を引剥がして開封したところ第2図の如き理想的な剥離状態にて剥離、開封することができた。」旨の記載によれば、支持フィルム側に凝集破壊した一部の離着用フィルムが付着しているものとは到底認められないから、当業者が、引用例発明1の実施例に示されるような前記開封作用を見たときに、離着用フィルムと支持フィルムとが層間剥離するものと認識できることは、当然のことといわなければならない。

したがって、原告の主張は明らかに失当であり、引用例発明1の「離着用フィルム」が、本願発明の「内層」に相当するとする審決の認定(審決書4頁13~16行)に、誤りはない。

(2)  本願発明の「内外層の層間接着力」について検討するに、本願発明の要旨には、「容器本体の内外層の層間接着力を該フランジ部と該トップフィルムの接着力より小さくなるように該容器を構成させるとともに、前記フランジ部の容器開口部側の内層に切り込みを設けた」と記載され、本願明細書(甲第3号証)には「切り込みは・・・蓋を剥がす時に内層を容易に切断できるものであればよく、外層まで切り込まれていても、内層の一部だけ切り込まれていてもよい。また、切り込みは全周にわたつてつけてもよいし、一部は残しておいてもよい。」(同号証2頁3欄40行~4欄2行)、「例えば、第1図において、つまみ部を上方にもちあげる。すると多層容器の内層と外層の層間で剥離し、切り込みの部分まで内層が剥離する。そして切り込みの部分に至つてからトツプフイルムのみが剥がされる。従つて、トツプフイルムと容器本体のフランジ部が強固に接着していてもイージーピールが可能となる。第2図においては、つまみ部をもちあげると、外縁部の切り込みから内層と外層が剥離し、その後は上に述べたと同様にトツプフイルムのイージーピールが可能となる。」(同頁4欄21~31行)と記載されている。

これらの記載並びに第1及び第2図(同3頁)によれば、本願発明では、内外層の層間接着力をトップフィルムとの接着力よりも小さくすることと、容器開口部側の内層に切込みを設けることが、発明の構成要件とされ、その実施例においても、内外層の層間接着力がトップフィルムとの接着力よりも小さいことから、まず、内外層間で(第2図においては、外縁部の切込み部分から)層間剥離が開始され、次いで、この剥離が進行して内層の切込み部分(第2図においては、内側の切込み部分)に至ると、当該部分の切断強度が、切込みにより極めて小さくなっていることから、剥離する部位が内外層の層間から切込みを経て内層とトップフィルムとの層間に移行し、トップフィルムのみが剥離されることが、開示されているものと認められる。

したがって、本願発明の「内外層の層間接着力」とは、開封時における内外層の層間剥離の際の接着力を意味し、これがトップフィルムとの接着力よりも小さいことが特定されているが、この接着力は、層間剥離の開始前の構成及び切込み構造によるその終了時の構成とは、直接関連するものでないことが明らかである。そして、内外層の剥離の開始以前の構成については、何ら特定されていない。本願明細書(甲第3号証)の第2図(同号証3頁)には、容器フランジ部の内層の外縁部に切込みを設けることが示唆されているが、これも実施例の一つにすぎないと記載されている(同2頁4欄5~6行)。仮に、この実施例で外縁部の切込みがなければ、引用例発明1と同様に、内層とトップフィルムとの層間剥離状態から、内層を切断するなどして内外層間の層間剥離に移行するものといわなければならない。

これに対し、引用例発明1においては、前示のとおり、離着用フィルムが切断された後、離着用フィルムの支持フィルムとの離着強度が、離着用フィルムと蓋材との接着力より小さいため、離着用フィルムと支持フィルムとの層間剥離が進行していくものであり、その間、離着用フィルムが切断されることもないものと認められる。

そうすると、引用例発明1の離着用フィルムの離着強度とは、離着用フィルムと支持フィルムとの層間剥離に必要な力、すなわち、層間接着力をいうことが明らかであり、これは、本願発明の内外層間の層間接着力と異なるところがないというべきである。

原告は、引用例発明1では、まず離着用フィルムが切断され、続いて離着用フィルムと支持フィルムの層間における剥離が生ずるのであるから、引用例発明1の「離着用フィルムの離着強度」とは、離着用フィルムの切断強度と、離着用フィルムと支持フィルムの層間接着力の総合されたものであり、本願発明の「内外層の層間接着力」とは相違すると主張する。

しかし、前示のとおり、本願発明の内外層間の層間接着力とは、層間剥離中における内層とトップフィルムとの接着力との対比において規定されたものであり、その点において、引用例発明1の離着用フィルムの離着強度とは異なるところがないというべきである。原告は、引用例発明1において層間剥離が開始される直前の構成に着目して、離着用フィルムの離着強度が切断強度と層間接着力の総合されたものであると主張するが、これは本願発明の要旨外の構成に基づく主張といわなければならない。仮に、層間剥離前後の構成を含めて考察するとすれば、本願発明においても、前示のとおり、内層の切断を容易に行うために設けられた開口部側の切込みでは、内層の一部だけが切り込まれたものや、周の一部を残して切り込まれたものも含むのであるから、これらのものでは層間剥離の終了時に内層が切断されることとなり、内層の切断強度を問題としていることが明らかである。したがって、本願発明の内外層の層間接着力も、内層の切断強度と内外層の層間接着力を総合しているものと評価することができるから、引用例発明1の離着用フィルムの離着強度と同様と認められ、被告が、引用例発明1の離着用フィルムの離着強度は、切断強度と層間接着力の総合されたものであると述べた趣旨も、このことを示すものといえる。いずれにしても、原告の上記主張は、採用することができない。

また、原告は、引用例発明1の層間剥離の作用からして、離着用フィルムの切断強度が、離着用フィルムと支持フィルムとの層間接着力より大きくなるように構成されており、引用例発明1の離着用フィルムの離着強度とは、実質的には切断強度を意味するから、この点において本願発明と相違すると主張する。

しかし、引用例発明1の離着用フィルムが、層間剥離の進行中に切断されない強度を有することは、本願発明の内層が、層間剥離の進行中に切断されないことと全く同様であるから、この点において両発明に相違はなく、原告の主張には理由がない。

したがって、引用例発明1の「離着用フィルムの離着強度」が、本願発明の「内外層の層間接着力」に相当するとする審決の認定(審決書4頁14~18行)に、誤りはない。

(3)  原告は、引用例発明1が、紙カップ状易開封性容器における紙の層割れを防止することを課題とし、離着強度の小さい特別の素材で離着用フィルムを形成した点に技術的意義を有するのに対し、本願発明は、容器本体の内層として、外層との層間接着力を蓋材であるトップフィルムとの接着力より小さく調整できるような素材であれば自由な選択が可能であり、この点において引用例発明1と相違すると主張する。

しかし、審決は、本願発明と同様の、容器本体の内外層の層間接着力を内層とトップフィルムとの接着力より小さく構成した簡易ピール容器の技術概念が開示されていることを示すために、引用例発明1を引用したものであり、この技術概念は、前示のとおり、本願発明の内層と引用例発明1の離着用フィルムとの具体的な素材の相違に左右されることなく、認定できるものである。

しかも、引用例1(甲第4号証)には、「本考案の容器によれば原紙等のカツプ素材の層割れを生ずることなく」(同号証3頁6欄20~21行)との記載があり、この記載によれば、紙以外の一般のカップ素材の層割れの防止にも、引用例発明1に開示された技術を適用できることが示唆されており、カップ素材を紙に限定すべき技術的理由は認められない。

したがって、引用例発明1のカップや離着用フィルムの具体的素材が、本願発明と相違する点に拘泥する原告の上記主張は、失当といわなければならない。

また、原告は、引用例発明1の密封強度が、容器本体の内層の離着強度によって制御されており、容器本体と蓋材との熱融着接着力を密封強度として活かすことを断念したものであるのに対し、本願発明は、容器本体と蓋材との熱融着接着力の大きさを密封強度として活かすことができ、この点で相違すると主張する。

しかし、引用例1(甲第4号証)に、「離着用フイルムの離着強度が弱すぎると当然封緘強度が弱くなり」との記載があることは、当事者間に争いがないところ、この記載は、離着用フィルムと支持フィルムとの層間接着力が極端に弱いと、容器の内圧により離着用フィルムが剥離あるいは切断される危険性が生ずることから、ある程度の接着強度を必要とすることを示したものであり、その他引用例1には、容器本体と蓋材との熱融着接着力を密封強度として活かすことを断念したことを示唆するような記載は全く認められないから、原告の上記主張も、明細書の記載に基づかない独断的なものであって、採用できない。

したがって、審決が、「引用例1には、実質的に『多層シートで形成された多層容器本体と、該容器本体のフランジ部の内縁と外縁の間において接着されたトップフィルムとからなるピール容器において、該容器本体の内外層の層間接着力を該フランジ部と該トップフィルムの接着力より小さくなるように該容器を構成させたことを特徴とする簡易ピール容器。』が記載されていると認める。」(審決書4頁19行~5頁7行)と認定したことに、誤りはない。

(4)  以上のことからして、審決が「本件発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、両者は、本件発明がフランジ部の容器開口部側の内層に切り込みを設けているのに対し、引用例1に記載された発明は該構成を具備しない点で相違しており、その余の点で一致している。」(審決書7頁3~7行)と認定したことにも、誤りはない。

2  取消事由2(相違点の判断の誤り)について

(1)  引用例2(甲第5号証)に、「多層シートからなる蓋板の内外層の層間接着力を該内層と多層シートからなる容器体フランジ部との熱融着接着力より小さくし、該内層の熱融着部の内外位置に切込を設けたことを特徴とする易開封性容器」の発明が記載されていること、「蓋板(B)は容器体(A)にフランジ(1)にて熱融着してある。開封に当っては第4図に示すように摘持部(4)を摘持して上方へ牽引すれば切込線(5)を端緒として第4図に示すように基材(2)とシーラント(3)との間が剥離され、該剥離は切込線(6)に至って停止する。」(審決書6頁8~14行)との記載があることは、当事者間に争いがない。

さらに、引用例2には、「而して、切込線(6)はフランジ(1)の内縁に沿つて囲繞されているため、前記剥離はフランジ(1)全体について行なわれ、該フランジ(1)上にシーラント(3)が残り、蓋板(B)がフランジ(1)から離れて容器が開口する。」(同号証明細書3頁14~18行)と記載されている。

これらの記載によれば、引用例発明2の切込みは、容器本体から蓋体を引き離そうとする場合、その力が、多層シートを構成する内外層の層間に、その内層(シーラント(3))の切断強度の大きさに影響されることなく作用するために設けられているものと認められるから、この切込みの技術的意義は、内層の熱融着部の内外位置における易開封性を達成することにあり、これが蓋体に設けられていることについては、格別の技術的意義を見出すことができないものと認められる。

したがって、審決が、「引用例2には、実質的に『多層シートの内外層の層間接着力を該内層と他の多層シートとの熱融着接着力より小さくし、該内層の熱融着部の内外位置に切込を設けたことを特徴とする易開封性容器』が記載されている」(審決書6頁18行~7頁2行)と認定したことに、誤りはない。

原告は、引用例発明2における蓋材と容器本体との区別を捨象して、上記審決書認定のような抽象的な技術概念を導くことは誤りであり、当業者にとっても、引用例発明2の蓋材に切込みを設けた構造を、容器本体の側に適用することは、困難であると主張する。

しかし、前示のとおり、引用例発明2の切込みは、内層の切断強度の大きさに影響されず易開封性を達成するために設けられたものであり、蓋体に設けられていることに格別の技術的意義はないから、これを容器本体の側に適用することは、当業者にとって容易なことであり、原告の上記主張は採用できない。

また、原告は、容器本体と蓋材とでは、その機能、構成、生産工程及び流通形態が異なり、取り扱う素材メーカーも相違するから、互換性を有するものではなく、両者の間において、一方の技術を他方に転用するという発想も通常なされないと主張する。

しかし、当業者は、前示のとおり、引用例発明2自体から、易開封性の達成のために設けられた切込みの技術的意義を容易に理解することが可能であり、一般的に容器本体と蓋材とで相違する点があるとしても、このことによって、上記当業者の理解が左右されるものでないことは明らかであるから、原告の上記主張も採用できない。

(2)  ところで、引用例発明1は、前示のとおり、「多層シートで形成された多層容器本体と、該容器本体のフランジ部の内縁と外縁の間において接着されたトップフィルムとからなるピール容器において、該容器本体の内外層の層間接着力を該フランジ部と該トップフィルムの接着力より小さくなるように該容器を構成させたことを特徴とする簡易ピール容器。」であり、易開封性を達成するために、容器本体のフランジ部の容器開口部側、すなわち、熱融着部の内側位置の内層に切断強度の小さい材料を選定した構成が示されているものと認められる。

そうすると、内層の熱融着部の内側位置における易開封性という共通の技術課題の達成のために、引用例発明1の内層に切断強度の小さい材料を選定した構成に代えて、引用例発明2の切込みによる内層の切断強度を小さくする構成を採用し、本願発明と同様の構成とすることは、当業者が容易に想到できるものと認められる。

したがって、審決が、「引用例1に記載された発明と引用例2に記載された発明とは、共に多層シートの内外層の層間接着力を該内層と他の多層シートとの熱融着接着力より小さくしたことを特徴とする易開封性容器に関するものであることで共通するから、引用例1に記載された発明に引用例2に記載された発明を適用しようとすること自体、当業者にとって格別の困難性があることとはいえない。」(審決書7頁9~16行)と判断したことに、誤りはない。

原告は、引用例発明1は、容器本体の内層として、切断強度の小さい素材を用いることを必須の構成とするものであり、この内層に切込みを設けることは、必要性がなく、技術的にもほとんど不可能であると主張する。

しかし、内層の熱融着部の内側位置における易開封性という共通の技術課題の達成のために、引用例発明1の切断強度の小さい内層に代えて、引用例発明2の切込みの構成を採用しようとする場合、引用例発明1の従来の内層の材質等をそのまま維持すべき技術的理由がないことは明らかであるから、内層の材質、厚さ等を引用例発明2の切込みに適したものにすることは、当業者が単なる設計的事項として容易に推考し得るものと認められ、原告の上記主張には、理由がない。

(3)  以上のことからして、審決が、「引用例1に記載された発明が、容器本体は上記多層シートで形成されトップフィルムは上記他の多層シートで形成されているのであるから、引用例2に記載された発明の切込は、設計上当然のことながら、多層シートで形成されている、引用例1の容器本体のフランジ部の容器開口部側の内層に設けるべきものである。したがって、引用例1に記載された簡易ピール容器のフランジ部の容器開口部側の内層に切り込みを設けて本件発明の如く構成することは、当業者が容易に想到し得たといわざるを得ない。」(審決書8頁2~12行)と判断したことに、誤りはない。

原告は、仮に、両発明を組み合わせるとしても、引用例発明1の蓋材の内層に、引用例発明2の切込みを入れようとするのが、当業者の通常の発想であり、フランジ部に切込みを設けた本願発明には、到達しないと主張する。

しかし、前示のとおり、引用例発明2の切込みは、易開封性の達成のために設けられたものであり、それが蓋体に設置されているという具体的構造は、技術的に重要視すべきことでないことが明らかであるから、これを容器本体の側に適用することは、当業者にとって容易なことであり、原告の上記主張は採用できない。

3  取消事由3(作用効果の看過)について

以上のとおり、引用例発明1のような、容器本体を構成する多層シートの内外層の層間接着力を、容器本体と蓋体との熱融着接着力より小さくして、この内外層の層間を剥離させる簡易ピール容器において、易開封性を達成するために、引用例発明2の切込みを容器本体のフランジ部の容器開口部側の内層に設けて、本願発明と同様の構成とすることは、当業者が容易に想到できるものといえる。

そうすると、そのようにして構成されたものが、原告が本願発明の効果として主張するところの、切込みを設けることによって、確実に易開封性が得られ、外観上の問題や、内容物の取出し不良の問題もなく、さらに、蓋材に、厚みを要求されることもなく、生産性に優れるという効果を奏するであろうことは、当業者にとって、容易に予想される範囲内のものである。

したがって、審決が、「本件発明の構成全体によってもたらされる効果も、上記引用例1~2に記載された技術事項から、当業者であれば予測し得る程度のものである。」(審決書8頁13~16行)と判断したことに、誤りはない。

4  以上のとおりであるから、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成7年審判第24269号

審決

東京都港区芝五丁目6番1号

請求入 出光石油化学 株式会社

東京都中央区築地2-4-10 テンハウス 穂高特許事務所

代理人弁理士 穂高哲夫

昭和61年特許願第79260号「簡易ピール容器」拒絶査定に対する審判事件(平成5年9月10日出願公告、特公平5-63385)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

Ⅰ 本件出願は、昭和61年4月8日の出願であって、原審において出願公告されたところ、相沢由美子から特許異議の申立てがあり、その申立てに理由があるとする決定がなされ、この決定の理由により拒絶査定されたものである。

本件出願の発明の要旨は、出願公告された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものと認める。

『多層シートで形成された多層容器本体と、該容器本体のフランジ部において接着されたトップフィルムとからなるピール容器において、該容器本体の内外層の層間接着力を該フランジ部と該トップフィルムの接着力より小さくなるように該容器を構成させるとともに、前記フランジ部の容器開口部側の内層に切り込みを設けたことを特徴とする簡易ピール容器。』(以下、これを「本件発明」という。)

Ⅱ これに対して、原審における特許異議申立人が甲1第号証として提示した実公昭59-24700号公報(以下、これを「引用例1」という。)には、

「縁部を設けた胴部と底部とを有する紙カップ状容器において、少なくとも前記縁部は紙カップ素材と支持フィルムと離着用フィルムとを積層せしめてなり、前記支持フィルムは中密度ポリエチレン又は高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンのブレンドポリマーからなり、前記離着用フィルムは低密度ポリエチレン、エチレンープロピレン共重合体とポリプロピレンの分子量1万以上のポリオレフィン系三成分ブレンドポリマーからなることを特徴とする紙カップ状易開封性容器。」(実用新案登録請求の範囲)

「この容器を密封する蓋体5は30~60ミクロンの厚さのアルミニウム箔17と20~50ミクロンの厚さのポリエチレン18とを積層したものであり、ポリエチレン18が下方にあって容器の縁部及び内容物と接触する。

今縁部1を加熱されたヒーターバー6で加圧すれば蓋体5のポリエチレン18と容器4の離着用フィルム8は密着してヒートシールされる。開封時密封された蓋体5を剥離するときは第2図にみられるようにヒートシールされた部分の離着用フィルム8’は切断され離脱して蓋体シール部分のポリエチレン18に固着したまま蓋体5側にうつって開封がなされる。

離着用フィルムの離着用強度がカップ原紙の層間強度より強ければ開封時には当然紙の層割れが生じ、易開封性は得られず、また外観状も見劣り………」(公報2頁左欄29~44行)

との記載がある。

上記記載における「紙カップ素材」「紙カップ状容器」「縁部」「支持フィルム」「離着用フィルム」「蓋体」「離着用フィルムの離着強度」「易開封性容器」は、本件発明の「多層シート」「多層容器本体」「フランジ部」「外層」「内層」「トップフイルム」「内外層の層間接着力」「簡易ピール容器」にそれぞれ相当する。

以上のこと及び第1~2図から、引用例1には、実質的に「多層シートで形成された多層容器本体と、該容器本体のフランジ部の内縁と外縁の間において接着されたトップフィルムとからなるピール容器において、該容器本体の内外層の層間接着力を該フランジ部と該トップフィルムの接着力より小さくなるように該容器を構成させたことを特徴とする簡易ピール容器。」が記載されていると認める。

更に、引用例1には、これをより抽象化した「多層シートの内外層の層間接着力を該内層と他の多層シートとの熱融着接着力より小さくしたことを特徴とする簡易ピール容器」なる技術概念が存在すると認める。

また、同じく特許異議申立人が甲第3号証として提示した実願昭55-35291号の明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム(実開昭56-138075号参照)(以下、これを「引用例2」という。)には、

「フランジ付容器体(A)のフランジ(1)に蓋板(B)を貼着してなる密封容器であって、前記蓋板(B)は基材(2)にシーラント(3)を比較的弱い接着強度で積層し、フランジ(1)との貼合部の一部より外側に摘持部(4)を突設し、該摘持部(4)の付根の部分のシーラント(3)に切込線(5)を穿設し、且つフランジ(1)の内側のシーラント(3)に切込線(6)を囲撓穿設したことを特徴とする易開封性容器。」(実用新案登録請求の範囲)

「蓋板(B)は容器体(A)にフランジ(1)にて熱融着してある。

開封に当っては第4図に示すように摘持部(4)を摘持して上方へ牽引すれば切込線(5)を端緒として第4図に示すように基材(2)とシーラント(3)との間が剥離され、該剥離は切込線(6)に至って停止する。」(明細書3頁8~14行)

なる記載がある。

上記記載におけるフランジとの貼合部は、フランジとの熱融着部を意味するものと解される。

以上のことから、引用例2には、実質的に「多層シートの内外層の層間接着力を該内層と他の多層シートとの熱融着接着力より小さくし、該内層の熱融着部の内外位置に切込を設けたことを特徴とする易開封性容器」が記載されていると認める。

Ⅲ 本件発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、両者は、本件発明がフランジ部の容器開口部側の内層に切り込みを設けているのに対し、引用例1に記載された発明は該構成を具備しない点で相違しており、その余の点で一致している。

Ⅳ そこで、この相違点について検討する。

引用例1に記載された発明と引用例2に記載された発明とは、共に多層シートの内外層の層間接着力を該内層と他の多層シートとの熱融着接着力より小さくしたことを特徴とする易開封性容器に関するものであることで共通するから、引用例1に記載された発明に引用例2に記載された発明を適用しようとすること自体、当業者にとって格別の困難性があることとはいえない。

そして、引用例2には、上記認定のとおり、多層シートの内外層の層間接着力を該内層と他の多層シートとの熱融着接着力より小さくし、該内層の熱融着部の内外位置に切込を設けたことを特徴とする易開封性容器が記載されているのであるから、その適用に当たり、引用例1に記載された発明が、容器本体は上記多層シートで形成されトップフィルムは上記他の多層シートで形成されているのであるから、引用例2に記載された発明の切込は、設計上当然のことながら、多層シートで形成されている、引用例1の容器本体のフランジ部の容器開口部側の内層に設けるべきものである。

したがって、引用例1に記載された簡易ピール容器のフランジ部の容器開口部側の内層に切り込みを設けて本件発明の如く構成することは、当業者が容易に想到し得たといわざるを得ない。

しかも、本件発明の構成全体によってもたらされる効果も、上記引用例1~2に記載された技術事項から、当業者であれば予測し得る程度のものである。

Ⅴ 以上のとおり、本件発明は、引用例1及び引用例2に記載されたそれぞれの発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって結論のとおり審決する。

平成8年5月7日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判宮 (略)

特許庁審判官 (略)

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